儲け話と彼女とバリ島
たとえば「必ず投資額の10%が儲かる商品」があると聞いて、一切の迷いなく、そんな話あるわけがないと切り捨てることを「常識的」というのだろう。
ただ世間には「常識的でない」人たちがいることも事実で、日本でそうであるように、ここタイでもまた、そういう人たちは「常識的でない儲け話」に飛びついているらしい。
金利10%保証の投機商品がある。
きっと分別がつき始める時期にかかる中二病みたいなもので、
働いて手元に貯金ができ始めると、身の丈以上に財を膨らませようとする欲求が、その触手を動かすのかもしれない。
1人でやるよりも、2人でお金を出し合ったほうが大きく稼げる。さらに、2人でやるよりも、人数を多くすればもっと大きく稼げる。
ぼくがタイに赴任した頃、同じころに新卒で入社してきたタイ人スタッフがいる。
彼女は田舎地方の出身で、素朴な雰囲気が好印象で、器用なタイプではないけれども、着実に仕事をこなした。性格も、にこやかで気さくで明るい。いつの間にか、彼女のまわりには人が集まり、職場のムードメーカーになった。
その彼女はいま、LINEを通して会社の仲間たちに、金利10%保証の投機商品への共同拠出を呼びかけている。
噂ばなしではあるけれども、LINEでは当然履歴が残るから、ほぼ確定的だ。
個人の責任の範囲内での資金運用ならいいけれども、勧誘による紹介料を手に入れているとしたら、「ネズミ講」のような犯罪行為に(本人が気づいているかどうか知らないけれど)加担している可能性もある。
いま、タイではこのような投機詐欺が社会問題化しているという。社内では総務部門が本格的な調査に乗り出すそうだ。
ぼくは、彼女がその調査対象のひとりであることを知っている。
今日、ぼくに彼女はいつものようににこやかに、ぼくの娘にどうぞとお花の形をした雑貨をくれた。
聞くと、彼女は最近バリ島に遊びに行ったようだった。