あるおじさんのタイでの晩酌の作法
同じタイ赴任中のそのおじさんは、週末には決まって行きつけの居酒屋に行くそうだ。
バンコクには約3万人の日本人が住んでいて、約1,200店舗もの日本食レストランがあるらしい。「バンコクは日本人にとって住みやすい街だ」とよく聞かれるのは、身近なところに日本食のお店がたくさんあることが大きな要因だと思う。
タイの物価水準からみると、確かに日本食は高い。
けれども、日本人にとっては、日本で日本食を食べるのと同じ水準で、日本食を食べることができる。たとえば、日本での定食メニューの相場が600~800円くらいだとしたら、タイでも同じ値段で食べることができる。
そのおじさんの行きつけの店は、人気の少ない路地にあるらしい。
夜遅い時間に店に入ると、大概の場合はお客がおじさんひとりだけで、自然と「貸し切り状態」になる。
おじさんが席につくと、店内のウエイトレスが集まり、一緒に席につく。特に何も言わなくても、そうなってしまうらしい。
ウエイトレスは、おじさんがいつも晩酌をしながら料理をつまむことを知っているので、勝手に瓶ビールの栓が開き始める。
ウエイトレスの女の子たちは、自分たちが飲む分のビールも持ってくる。お店はまだ閉店時間ではないけれども、皆ビールを飲む。明るくにぎやかで、あっけらかんとした雰囲気に包まれて、おじさんの晩酌は進んでいく。
詐欺に合っているわけではないし、女の子たちに悪意があるわけでもない。
ごく自然に、当たり前のように流れていく。
この大らかで緩い感じは、欧米から発信される画一的なグローバルスタンダードの行き届かない場所にあり、「タイらしさ」が息づいているようにも感じられる。
おじさんの勘定には、自分の晩酌代とともに、その女の子たちの晩酌代も含まれる。
おじさんは、支払いを済ませ家路につくとき、また来週もにぎやかな晩酌ができることを、きっと楽しみに待っているにちがいない。