単身赴任(1)単身赴任は不幸か?
単身赴任は、不幸か?
会社員である以上、転勤や人事異動は避けられない。
海外赴任を命じられ、僕は今タイで単身生活をしている。妻と2人の娘は、日本で暮らす。娘たちはまだ小さい。
タイでの生活は、毎日の食事、掃除・洗濯、部屋の片付けや、生活上のさまざまな不具合へも、すべて自分ひとりで対処する必要がある。
家族と一緒なら、家事や雑事は妻と分担できただろうし(僕の場合は、ほとんど妻任せでしたが・・・)、娘たちがそばにいれば、慌ただしくとも賑やかに日々は過ぎていくのだろう。そんな生活が、きっと「普通の生活」だ。
日本では、「イクメン」や「男性の育児休暇取得」がトレンドらしい。
僕はと言えば、キャリア形成に必要な海外業務経験を積み、あらためて自分と自分の仕事と向き合い、将来の進路や方向性を見定める手がかりを得るために、ひとりで海外で働くことを選んだ。
この生活をしてから、半年が経つ。
自分の価値観と異文化との葛藤を日々感じながら、ほんの少しずつではあるけれど、自分の枠組みが広がっていくのを感じている。
「自分にとっての常識」が、「常識」ではない。頭で考えるとうまくいくはずのことが、海外の現場では、必ずしもそうならない。ひとつ課題が生まれ、解決のためのアクションを起こすと、今まで見えていなかったまたべつの課題が顔を出したりする。
思いもよらないところで、仕事が行き詰ったりする。
そんな海外での仕事経験が、日本のなかだけで仕事をしていては気づかない新しい発見や、ものの見方を与えてくれるのも事実だ。海外に出て仕事内容の幅が広がったけれども、それ以上に、ひとつの仕事をより深く、その奥行きを感じられるようにもなった。
会社の掲げる組織目標がある。
その「目指すべき姿」と、海外現場での生の実態には、ギャップがある。そのギャップを埋めるため、僕たち駐在員はナショナルスタッフとの対話を重ねるが、言葉の壁や、異文化コミュニケーションの困難さに立ち尽くすこともある。
つらく、諦めようと思うようなとき、ふとナショナルスタッフと気持ちが通じ合う瞬間がある。課題を共有し、一緒に解決できたときの喜びは大きい。困難も多いが、今は仕事が充実していて楽しいと、僕は言える。
生活面も、考えようによっては、単身赴任の楽しみ方がある。
ひとりで家事・雑事をしながら(タイではメイドサービスでほとんどの家事を任せることができますが、それでも基本的な食事や洗濯等は自分でやっています)、自分の段取りの悪さに呆れてしまうけれど、これもいいトレーニングだと考えるようにしている。
生活をすれば、自然とモノが多くなる。定期的に片付けていかないと、すぐに部屋は乱雑になる。要らないものは捨てる、見えるところに置くものと収納するものに分けて整理するのが、快適な暮らしをする上では大切なことだ。
面倒くさい…とサボりたい気持ちになるのはいつものことだが、家事をサボるわけにはいかない。日々の家事や雑事は、「やるべきこと」がやれる自分をつくるプロセスだ。今まで自分が妻に甘えていた弱い部分を鍛え直しながら、簡単なことでも一つずつできていくのが楽しい(最近、アイロン掛けもできるようになりました)。
単身赴任という境遇で、「できること」はたくさんある。この機会にもう一度、自分の仕事や生活に向き合うことでの、新しい気づきや発見がある。家族とどのような関係性をつくりたいか、離れて暮らすからこそしっかりと考えるようにもなる。
単身赴任は、不幸か?
人それぞれ、境遇は違うとは思うけれど、これをチャンスととらえて、この経験を自分の人生の味方に変えることが大切だ、と僕は考えている。