資本主義経済の覇者とタイの若者たち
ぼくはたばこを吸わないけれど、上司や同僚に付き合って、会社の喫煙エリアで立ち話をすることがある。
会社では喫煙時間が決められていて、午前・午後それぞれ10分間の休憩時間と、昼休みの間しか喫煙することができない。喫煙エリアも決められている。
喫煙エリアには当然、タイ現地スタッフも足を運ぶ。そのほとんどが、地べたに座り、携帯を見ている。
あるいは、携帯で何やらゲームに夢中になっている。
タイは日本に比べて物価が低いのは確かだけれども、iPhoneは高い。
iPhone7でいうと、現地通貨で約3万バーツ前後といったところで、日本円で約9万円前後。現地スタッフの初任給を大きく上回る。入社10年クラスの基本給でも、賄うのは厳しい。
若いタイ人スタッフたちが、iPhoneや他メーカーのスマホを持っている。友人たちとのLINEでの交流や、刺激的なエンターテイメントに夢中になっている。
月給を上回る出費であることは間違いない。なかには、借金をして購入するひともいるらしい。
世界でも貯蓄性が高いと言われる日本人のぼくから見ると、彼らは「不相応」な買いものをしているように見える。
自分の月給以上の金額を支払ってでも、借金をしてまでも、手に入れなければならない携帯電話なのだろうかと思ってしまう。
アップル社は間違いなく資本主義経済のなかの成功者にちがいない。
全世界に強烈なエンターテイメントとコミュニケーションツールを提供し、本来それに手が届かないはずの人たちの購買意欲を不可避的に刺激し続ける。その魅力にはまった人たちは、ときに借金をしてまでも、最新の機種を求める。
富が、巨大企業に集まる。
一方で、この喫煙エリアでは、「不相応」な買いもので手にした享楽に、彼らは酔いしれ、心が満たされている。