無神経
この前、バンコク市内で知人としゃぶしゃぶを食べました。
歳は30代前半くらいでしょうか、見ているだけでも元気がもらえそうなほど明るくて、気さくで、受け答えのハキハキとした日本人女性が働いています。客層も日本人が多く、この元気な店員さんがお店を盛り立てているのがわかります。
「毎日、仕事が楽しくて仕方ないんです」と、その店員さんはまっすぐに届く声で言いました。お店の創作メニューのほとんどは、この店員さんが自分でアイデアを出したり、お客さんとのコミュニケーションのなかで生まれたものなのだそうです。
アイデアが新作メニューになり、お客さんに喜んでもらえる。そんな毎日の仕事が楽しくて、「仕事をしているんだか趣味をしに来ているんだか分からない状態」だと、カラリと笑います。
その店員さんが、人気メニューとして紹介してくれたのが「カレー鍋」でした。
胃に重くなく、さらりと食べられるスープが自信作。時おりスパイスや唐辛子をふりかけつつ、野菜やお肉をどしどし追加しながら、あっという間にぼくたちは満腹になりました。
「どうでしたか」と明るく話しかけてくれる店員さん。
その店員さんに向かい、同じ席にいた知人の言葉を思い出すと、ぼくは今でも申し訳ない気持ちになります。
「カレー鍋は割高だと思いますね。ふつうのスープのほうが、もっと(お肉を)食べれたと思う。やっぱりカレーだと、すぐに満腹になってしまう」
笑顔を崩さずに「そうですか・・・」と言う店員さんの声を、ぼくはうつ向いたまま聞いていました。店を出るとき、見送ってくれた店員さんも、ぼくたちも、みんな笑っていたけれども、なんだか後味の悪さを引きずったまま、ぼくは帰路についたのでした。